最古の翻訳、松川氏の「ペターの物語」は抜群に面白い(^_^)
「悪戯な小兎」掲載の翌月、1906年12月、
「悪戯な小兎 後日譚」なるものが『日本農業雑誌』第2巻第4号に載せられます。
http://d.hatena.ne.jp/Frederick/20070525これは、邦題「ベンジャミンバニーのおはなし」、
原題「THE TALE OF BENJAMIN BUNNY」の翻訳です。
ピーターがマグレガーさんにとられてしまった服を、
いとこのベンジャミンといっしょに取り返しに行くという内容なのですが、
松川二郎訳版では、畑に入り込む、話の前半部までしか訳されていません。
しかし訳された分量が少ないとはいえ松川節はがっつり健在でw、
前回に勝るとも劣らない衝撃的な内容です!w
訪ねてきたベンジャミンにピーターが、服をなくした話をする場面、まずは原文。
Peter was sitting by himself. He looked poorly, and was dressed in a red cotton pocket-handkerchief.
"Peter," said little Benjamin, in a whisper, "who has got your clothes?"
Peter replied, "The scarecrow in Mr. McGregor's garden," and described how he had been chased about the garden, and had dropped his shoes and coat.
Little Benjamin sat down beside his cousin and assured him that Mr. McGregor had gone out in a gig, and Mrs. McGregor also; and certainly for the day, because she was wearing her best bonnet.
Peter said he hoped that it would rain.
次に、石井桃子訳。
ピーターは、そこに、ひとりでいました。ピーターはたいへんげんきのないようすで、大きい あかい もめんのはんけちにくるまっていました。
「ピーター」ベンジャミンは、ひそひそ声でいいました。「きみのふく だれにとられちゃったの?」
「マグレガーさんのはたけのかかしに」と、ピーターはこたえて、マグレガーさんのはたけで、あちこちおいまわされたことや くつや うわぎをおとしてきたはなしをしました。
ベンジャミンは、ピーターのそばに、こしをおろして、いま マグレガーさんが、ばしゃででかけるのを見てきたんだ、といいました。それに おくさんは、よそゆきのぼんねっとをかぶっていたから、きょうは だいじょうぶ、1日 かえってこないよ、といいました。
そんなら、きょうは、あめでもふればいい と、ピーターはいいました。
そして松川二郎訳・・のりにのって筆を走らせる松川さんが目に浮かぶようですw
例のごとくの大幅改訂増補なのですが、
ここでもやっぱり兎どもがやたらに性格悪いのはなぜだw
其処にペターが日向ぼつこをして居ました。見れば赤い木綿のハンカチーフを一枚ぐる/\巻にしたッ切り、寒むさうにつくばつて居ました。ポンと肩を叩いて、
「おい君、どうしたんだい。」
「やあ。ベン君、今日は馬鹿に寒いな。」
「寒かないョ。尤も手巾(はんけち)一枚ぢゃすこし計寒いかも知れぬ、着物は如何(どう)したんだい。」
「是れに就て少々面白い話があるんだ。」
「聞かなくつても知てら、仏壇に供へてあるお菓子を摘み喰ひして叱られて・・。」
「馬鹿ッ、止せ貴様ぢゃあるまいし。昨日杢平老爺ん所の案山子に奪られたんだ。」
「へえ、吾輩の実験に依ると案山子の手足は動くもんぢゃないぜ。」
「相変らず無駄口ばかり叩いて居るね。黙つて聞き給へ、斯うなんだ。」
とペターは昨日垣の破れ目より杢平老爺の畑に入つた事から、追駈けられて上衣(じゃけつ)と靴を落した事、水のある如露の中へ飛込んで危ふく一命を助かつたが、感冒(かぜ)を引いた事など、一部始終を物語りました。そこでベンは、
「杢平老爺は今朝早く馬車で町へ出かけたよ、而(そ)して必然(きつと)晩にならなければ帰らないんだ。」
「何故そんな事まで君は知てるのかい。」
「何故つて君、それはちやんと僕に解つて居るよ、杢平夫人が一番善いボンネツトを被つて居たからね。」
「畜生!雨が降れ/\。」
「彼のボンネツトは今から四十年前のお嫁入りの時に買たんだつてね、六十・・・何銭かで。」
「さうか、道理で近頃余り見ぬ形だと思つた。」
「其の頃は君彼のお婆さんも年が若かつてね・・。」
「生れた当時は矢張赤ん坊だつたッてね。」
「まぜッかへさないで聞き給へ。其の頃は鬼も十八の娘盛りで、八幡村のおへたさんて言へば、三里四方に響いた美人だつたんだって、其れで杢平さんが、これなんだ。」
「それで何かい、杢平老爺さんが咽頭(のど)を如何(どう)かしたのか。」
「話せぬなあ。首つたけになつたつて言ふ事だよ。惚れたんだ。」
「おや/\、あの種茄子に足の生た様なお婆さんに?」
「だからサ、其の頃は若くて美人だつたつて言て居るぢゃないか。而(そ)してとう/\恋病(わづらひ)にかゝつてしまつたと思ひ給へ。」
「ウム、それから。」
「而(さう)すると、同じ頃おへたさんの方でも杢平老爺さんに・・。」
「一寸待ち給へ、其の頃は杢平老爺さんは決して老爺さんぢゃ無かつた、若い善い男だつたんだらう。」
これなんてコントwww
そしてどうしてペターは異常におへたさんに厳しいんだwww
個人的には、ペターがいまいちかわいくないのは、
『日本農業雑誌』にとってみれば兎はやっぱり害獣だからと思っているのですがw
少し読んだだけですが、『日本農業雑誌』、むちゃくちゃ面白い雑誌です。
記事の8割はまじめな農業関係の実用記事なのに、
チャールズ・ラムの『焼豚論』の翻訳(これがまた傑作w)なんかがあったりして。
読者投稿型の田園俳句・川柳コーナーがまた面白いんですよ・・!
投稿者の出身地を見る限り、読者層は日本全国に広がっていたみたいですね。
明治の頃の雑誌って今までちゃんと読んだことなかったけど、こんなに面白いとは。
松川氏の翻訳も、今までさんざん笑ってきましたが、
決して馬鹿にしているわけではないのですw
私には、翻訳とはなんぞやなんて難しい事を考える頭脳はありませんので、
読んで、そして面白いか面白くなかったかしかわかりません。
松川氏の「ペターの物語」は、それはもう抜群に面白かったです。
それだけは、自信もって言えますw