「ミス・ポター」 ピーターラビット誕生物語
いたずらっこのうさぎの冒険を描いた絵本「ピーターラビットのおはなし」の作者、ビアトリクス・ポター。ロンドンの良家の子女として生まれ育った彼女が、なぜ湖水地方に移り住んだのか。彼女が生きた時代と人生を、忠実かつ丁寧に描いたのが「ミス・ポター」である。
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「臆病にならないで。自信を持って」。自分に言い聞かせながら、ピーターラビットのスケッチを出版社に持ち込んだポター(レニー・ゼルウィガー)。いつものごとく同じ重い空気が漂うが、やがて彼女に満面の笑みがこぼれ出る。ようやくピーターラビットの絵本の出版契約を、自ら取りつけたのだ。
ポターの出版担当者は、経営者であるウォーン兄弟の末弟・ノーマン(ユアン・マクレガー)。優しい色使いをするなど工夫を凝らしながら、ポターは彼と協力して本を作り上げる。くすぶっていた彼女の新しい世界が開けていく。次第に2人は互いの良き理解者となり、恋心を抱くようになる。
完成した絵本は、瞬く間にベストセラーとなった。しかし、“職業を持つ32歳独身”の娘を、両親は快く思わない。身分違いを理由に、ノーマンとの結婚にも反対をする。
ある夏、例年どおりポターは家族とのひと時を湖水地方で過ごす。結婚の約束を交わしたものの、夏の間だけノーマンとは離れ離れ。そこに予期せぬ悲しみが彼女を襲う。失意のどん底に落ちたポターは、湖水地方に移り住むことを決意する。豊かな大自然の中で、少しずつ立ち直っていく彼女。作家活動のかたわら、農場の経営、自然保護などに活躍の場を広げていった。
大小たくさんの湖、真っ白な羊たち、四季折々の色合いを持つ丘。ポターが半生を過ごした当時と変わらない湖水地方での撮影。19世紀後半から20世紀初頭の衣装や建物、乗り物の再現。主役から脇役まで存在感あるキャスティング。ポターの原画と、映画ならではの動き出すイラスト。ストーリーは淡々と進行するものの、細部にまでこだわった完成度の高い作品である。
当時としてはユニークだった、擬人化した動物のキャラクターの商品化ビジネス。女性の職業が極端に制限されていた時代、ポターが成功した理由は何か。何がやりたくて何ができるか、仕事の価値を明確にし、時代に屈せず人生を切り開く強い意志と、はっきりしたビジョンを持っていたからであろう。
彼女はシャイな一面もあったけれども、行動力があり想像力豊かで、自由な心を持つとても現代的な女性だったと思う。「ピーターラビットのおはなし」もただ可愛いだけではなく、動物社会の現実の怖さも描いている。湖水地方で過ごした子供の頃。動物たちの生き生きした姿を観察し、色々な想像をめぐらし遊んでいた記憶を、物語全体にちりばめている。
厳格な家庭で育ちながら「表に出るのは、はしたない」とされていた時代に。自らのアプローチで仕事を得て、田舎でナチュラルライフを実現する彼女には、現代に生きる私たち、特に女性は共感する部分がとても多いだろう。いくら自然が好きで、一生困らない収入を得ていても、都会で育った若い女性が1人で田舎暮らしをするなど、憧れつつもなかなかできることではない。
絵本だけでなく、自然や動物保護へのポターの偉大な貢献を、映画を通して知ることができるいい機会だと思う。
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「ミス・ポター」(2006年、英)
監督:クリス・ヌーナン
出演:レニー・ゼルウィガー、ユアン・マクレガー、エミリー・ワトソン
9月、東京・日劇3ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。