「エンジェル」 “オゾン的”冷ややかな視線
フランソワ・オゾン監督作品はいつも注目している。今回は原作ものかつ初の英語作品「エンジェル」。東京国際映画祭ではレイト上映にもかかわらず、多くの人が来場していた。
http://www.cinema.janjan.jp/0710/0710244483/1.php
20世紀初頭、イギリスの田舎町。食料品店の家庭で育ったエンジェル・デヴェレル(ロモーラ・ガライ)は、小さい頃から上流階級の生活に強い憧れを抱き、近くの豪邸“パラダイス”に住むことを夢見ていた。華やかな世界や恋愛への憧れを小説にし、16歳にして出版を実現。エンジェルの本はベストセラーとなり、作家としての名声や“パラダイス”での華やかな暮らし、上流階級出身の画家との恋愛など、思い描いた人生を手に入れる。
イギリスの女流作家の映画は、最近多く作られているようだ。9月に公開されたピーター・ラビットの原作者、ベアトリクス・ポターをモデルにした「ミス・ポター」(レニー・ゼルヴィガー主演)、2008年公開予定でジェーン・オースティンの生涯を描いた「Becoming Jane」(アン・ハサウェイ主演)。今回の「エンジェル」は、作家のエリザベス・テイラー原作で、モデルはやはり英女流作家のマリー・コレリといわれている。人生経験の浅い少女が、あっという間に人気作家として大金持ちになるのには驚いた。前半はエンジェルの容易な成功や、傲慢な態度を少し腹立たしく感じ、苦労話の好きな日本人には共感を得にくい展開かもしれない。
しかしよく見ると、薄味ながらもオゾンらしい皮肉や冷ややかな視点が隠されている。いかにもイギリス的ご婦人、シャーロット・ランプリングはオゾン作品の常連であり、私としてはもっと彼女を使ってほしかったと思う。
前半のカラフルな衣装や、ゴージャスな生活、夢を自分で現実のものにしてゆくヴィヴィアン・リーのような力強さもよかったのだが、後半の波乱万丈で陰りの見える人生が作品の肝である。主演のロモーラ・ガライ(ウディ・アレン監督の『タロット・カード殺人事件』では友人の貴族令嬢役で出演)が迫力の演技を披露している。とても魅力的な女優さんながら、目にクマを作り悲痛の表情で叫ぶ姿は、見るものの心を離さない。人生のはかなさ、うわべの幸せに踊らされていた絶望感が心に迫り、オペラのような幕引きが見事だった。
本編の上映前、オゾン監督のビデオレターが流された。「この映画は、1940~50年代のハリウッド映画へのオマージュを含んでいる」と監督。なるほど、旅行シーンの特撮も、画面の切り替えもクラシックな雰囲気が感じられる。熱いメロドラマ調の展開も、気丈だけれどもろい女性像も、“オゾン的ハリウッド映画”なのだと納得した。