日本もそのうちこうなる? 怖~い映画
マイケル・ムーアの前作ってなんだっけ?と本作を観ながらしばし考えたのだけど、思い出せなくて本作の後半でやっと「華氏911」だ!と思い出した。しかし、どんな内容だったっけ?となるとほとんど覚えてなかった。「ボーリング・フォー・コロンバイン」はよく覚えているんだけど。それはなんでかな?と考えたらユーモアがあったからだと思う(笑えるシーンあり。でも「華氏911」はシリアス一辺倒だった)。そして、たぶん本作「シッコ」もなかなか忘れられないと思う。それはユーモアと涙があったからだ。
http://www.fe-mail.co.jp/trend/entertainmentflash/70831.cfm
今度の映画はアメリカの医療制度と医療事情を描く。アメリカでは医療保険といっても民間の保険会社がすべてを決めるシステム。だから保険会社の判断で手術ができなかったり、救急車を呼んでも保険が下りなかったりするという、保険会社に都合のいい驚愕のシステム。病で苦しむ人のことなんか考えてもいない、いかに保険を払わないようにすることばかりを考えている保険会社の実態が数々の証言により明らかになっていく。マイケル・ムーアは他国の医療制度も取材し、ついにはキューバのグアンタナモ海軍米基地でアメリカ唯一の無償治療を受けられることを知り、そこへ保険でひどい目にあってきた証言者とともに乗り込んでいく・・・・。
恐ろしい映画である。アメリカで起きていることは5年後には日本で起きると言われているが、そのうち、この民間の保険会社のシステムも日本にやってくる可能性は大なのだ。日本はWHO(世界保健機構)の調査ランキングで保険充実度は10位らしいが、アメリカはなんと37位! フーッとため息がでるばかりだ。しかし、ラストでは保険の恩恵をなにも受けられなかった人々がキューバで厚遇され、その様子にはカタルシスを感じて一時涙してしまった。まるで、劇映画並みの感動である。しかし、後に残る深い疑問・・・なぜ自国ではその厚遇が受けられないのか? その答えは、こういうシステムになっただけの長い時間がたたなければたぶん出ないのだろう。フーッとまたため息だが、ラストショットの明るいユーモアに助けられ、劇場を後にできる佳作となっている。これもすべてマイケル・ムーアの腕であろう。この映画を観てアメリカや他国の医療制度を知るだけでも意味のある映画であると思う。まずは知ることから始まるのだから、ね。
そうそう、この映画で初めて気づいたのだけど、マイケル・ムーアってとてもとてもシリアスな顔をしてる人なんですよ。クマみたいな巨体に反して。それは発見でした。
監督・製作・脚本/マイケル・ムーア
●東京・シネマGAGA、シャンテシネ、他、
大阪・テアトル梅田、他にて上映中
ミス・ポター(07年 アメリカ)
ミス・ポターの今生での重大な役目は?
ピーターラビットの原作者、ビアトリクス・ポターの半生を描くドラマ。1902年のイギリス。上流階級出身のビアトリクスは36歳になっても結婚せず、自分の描いた動物たちの絵を本にして出版してくれる会社を探していた。そして、ウォーン社という出版社から出すことが決まり、編集者としてノーマン・ウォーンという青年と知り合うことになる。発売後、ビアトリクスの本「ピーターラビット」は大ベストセラーとなり、ビアトリクスのノーマンへの信頼は愛へと変わっていく。結婚を約束したふたりだったが・・・・。
小さい頃から寝食を忘れて没頭したものは、いつか自分の身を助くものだ。という言葉を改めて思い出す。ミス・ポターも幼少から自然や動物に親しみ、絵画のレッスンも受け、毎夏には湖水地方で自然と過ごした。動物たちは彼女の友達なのだ。そして、この映画は、人には役目があってこの世に生を受けているんだなあ、ということを確認させてくれる。ポターが生涯で初めて好きになったノーマン。しかし、彼は結婚する相手ではなかった。彼の今生での役目はポターの作品を世に出すことだったのだ。そして、彼女の力になること。それだけ。彼女には他に一生を共に過ごす相手がちゃんといたのだ。しかも、その相手とは幼少の頃に会っている。そしてその相手はポターにお話を作ることを薦める人であるのだ。スビリチュアルなことでいえば、この世での出会いはガイド(守護霊のような高次の存在)が巧妙にシナリオを書いているそうで、ポターの半生のガイドによる素晴らしい演出と愛に私は涙してしまった。
ポターの今生での役目はピーターラビットの絵本で世の中の人々を慰めることと、その印税で土地を買い自然を永久に残していくということだったのだ。彼女が印税で買った湖水地方の4千エーカーもの土地は、死後ナショナル・トラストに贈与され、永遠に保護される土地となっている。ノーマンとの結婚が実現していれば、今生の役目を果たすことはできなかっただろう。
ポターを演じるレニー・ゼルウィガーがほとんどスッピンで好演。少々わざとらしい口元が気になったが・・・こんな口なんだろう・・・? あと、エミリー・ワトソンのデカさにも驚いたが、心洗われる美しい一作である。監督があの感動作「ベイブ」のクリス・ヌーナン。「ベイブ」以来11年ぶりの新作というのも驚きだ。
(C)Uk Film Council/Hopping Mad Distribution(IOM)Ltd 2006 All Rights Reserved
監督/クリス・ヌーナン 脚本/リチャード・モルトビー・Jr 出演/レニー・ゼルウィガー、ユアン・マクレガー、エミリー・ワトソン、バーバラ・フリン
●9月15日(土)~
東京・日劇3、他、大阪・ナビオTOHOプレックス、他にてロードショー
(C)Uk Film Council/Hopping Mad Distribution(IOM)Ltd 2006 All Rights Reserved
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一宮千桃(いちみや・せんとう)
映画評論家。講師。MC。情報誌映画担当を経て独立。フリーで文筆や講師活動を行う。好きな映画は「ピアノ・レッスン」。小学校の頃から観つづけてきた映画によって愛も恋も男も女も人生もオシャレも知ったという箱入り乙女(?)。趣味は海外旅行、読書、クラシック音楽鑑賞、美術展巡り。宝石収集。占い。古本屋巡り。
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